営業は数字を上げることが仕事なんだけどね、実はその手前が大事という話(5)

登山
プロローグ

前回「予算必達」は目に見えない目標なのでプロセスを一つひとつ分解して視覚化していく作業を必要とするのに対し、「こういう未来を作りたい」は目指す姿が視覚化されている一方でその実現への道のりは地図に書いていないと書きました。

申し上げたようにどちらが必要だとかどちらが面白いかという話ではありませんが、この2つは取り組みかたのアプローチがまったく違います。

だから「こういう未来を作りたい」の議論をしているときに、チームメンバーの間でよりイメージを共有化するために売上げや利益の数字をはじいたとしてもその数字が「必達目標」との考えかたにはならない、というより「必達」の考えかたにはそぐわない。

だから「未来を作る」議論の最中に「数字が必達かどうか」を考えてはいけない。そうなると本来進めたかった議論とは違う方向に話が行ってしまうと書きました。

今回はこのアプローチの違いについてもう少し掘り下げてみます。

目に見えない予算数字を達成するには・・

データ

上で書いたように目に見えない予算数字を達成するにはそこに至るプロセスに分解していくことが必要です(予算数字が目に見えないってどういうこと?と思われた方はこちら「営業は数字を上げることが仕事なんだけどね、実はその手前が大事という話(3)・・・売上げや利益は目に見えないもの」)。

あと3千万円の利益を積み上げようと思ったら、このお客さんに1千万、あのお客さんに5百万とか、この商品で1千万・・・などと分解していきますね。

この作業、というか計画は営業経験が長いベテランであればあるほどスラスラと頭に浮かんでくるものです。

しかし・・・

同時にこのお客さんに1千万はとても無理!などということも一瞬で頭に思い浮かぶもの。そうすると顧客Aと顧客Bと・・・全部足し合わせてもとうて3千万円に届かないということもわかってきます。

でも上司は大抵よしわかったと許してはくれないので悶々とすることになりますね。営業あるあるの話です。

これって、結局自分のこれまでの営業経験の延長戦で考えているからなんですね。自分の引き出しの中の作戦リストや顧客リストからすべて引っ張り出してしまうともう引き出しに何も残っていない状態になります。

まぶたに浮かぶ未来の姿を実現するのに必要なアプローチ

水晶玉

一方「まぶたに浮かぶ実現したい未来」は目を開けるとスッと目の前から消えていく淡雪のようなものです。

つまり目の前に見えていることを組み合わせても到底実現できません。言い換えると過去の経験の上で考えるだけではそこに至る道が見えてこないわけです。

さあ、困った。どうしたらよいのでしょう。ここが思考停止に陥りやすいポイントです。ここを突破しないことには新事業なんてできません。

とはいえ人間はゼロからイチは作れません。過去の経験や勉強したことから組み上げていくしかない。

そこで出てくるのが前にも触れた「具体と抽象の往復運動」です。

過去の経験や本で読んだこと、人から聞いたことを一旦抽象のステージに上げてそこから今目の前にある実現したい課題という具体に合うように落とし込む。このアプローチが必要となります。

今までの経験から離れることも必要だし簡単なことではないけれど

信じられない!

「具体と抽象の往復運動」こそがまさにクリエイティブな作業なのだと思います。

その過程ではときに過去の経験から離れることも必要でしょう。もう少していねいに説明すると過去にうまくいかなかったことでもそれを抽象の世界に引き上げて再構成してから今の状況に当てはめると違う答えが出てくることがある、そういうことですね。

過去の延長線上でモノを考えるのと異なり、かなり難易度が上がります。

でもだからと言って諦めてしまっては何も進みません。子供の頃の部活と同じで練習あるのみです。

予算数字の達成だって長い営業経験の中で身につけてきたスキルなわけで、「具体と抽象の往復運動」も練習を積み重ねるしかありませんね。

それって目の前に見えるモノをデッサンする作業と同じ?

デッサン

実は今週のあたまに田子學氏の「デザインマネジメントによるイノベーター育成講座」のお手伝いをしてきました。

この講座は日経クロストレンド誌の主催で、実際にデッサンの実技をしながらイノベーションの力をつけていくもので、今年の春に第1回が開催されたのに続く2回目の実施なのですが、1回目の生徒だったぼくにお手伝いの声がかかったので参加したものです。

講義の中であらためて聞いたのが次の話。イノベーションには次の3点が必要との話です。

  1. 俯瞰する視点を持つ
  2. リフレーム
  3. 編集能力

❶は狭い視点でものを見るばかりではいけないということで誰もが納得できるものと思います。

❷は言い換えるとバイアスにとらわれない。今までとは違ったフレームで見ること。

❸は見たものを理論値として表現することで、これがまさに具体を抽象化することに当たりますね。

デッサンの作業を分解するとまさに上の3点になり、これに慣れると脳の構造が変わるのだそうです(ぼくはまだまだ脳の構造が変わる域には達していませんが)

「まぶたに浮かぶ未来」を実現するプロセスはまさにイノベーションですから、この3つをそれこそ高度なレベルで行っていくことが必要なのでしょう。

ちなみにこの講座は評判がよいようですからおそらく来年には第3回が開催されることと思います。半日の講座が数週間の間隔で3回実施されるもので、関心のある方はぜひチェックしてみてください(第2回の案内はこちら)。

慣れないうちはひとりで考えてもいいアイデアは出てこない

ディスカッション

講座のお手伝いの中で半年ぶりにデッサンに取り組みましたが、やはりデッサンの練習も継続していかなければなりませんね。継続は力なりですから。

練習は続けるとして、また仕事の中で「具体と抽象の往復運動」の練習も重ねていくものとして、上の❶〜❸はなかなか難敵ですからそう簡単にやっつけるわけにはいきません。

一方、仕事は目の前に迫っていますからイノベーション力がつくのを待ってはくれません。

そこで現在会社のプロジェクトでやっているのはメンバーの知を集めることです。

一人では限界があるのでみんなでわいわいとアイデアを出し合う、その過程でみんなで❶〜❸を常に意識しておく、この試行錯誤を繰り返していこうと取り組んでいます。

そういえばメンバーの一人に上記講座の受講を勧めたのですが結局申し込んでくれなかったな、残念(笑)

エピローグ

今回の文章ではいかにも「予算の達成」はクリエイティブな仕事でないと言っているように映ったかもしれませんが、そんなことはありません。

あと3千万円がどうしても埋められない、となったときに過去から離れた発想でプロセスを構築することはまさにクリエイティブな仕事であり、ここで諦めずに考え抜くことが自分の殻を破ることにつながるのだと思っています。

りんごのデッサン
登山

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この記事を書いた人

山田文彦
 株式会社クレハトレーディング代表取締役社長
 社員の力をどうやって高めていくか? これが毎日考えているテーマ
 日本一の会社にしたいと真面目に考えています

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