演劇教育

このブログでたびたびコミュニケーションを取り上げており、さらにこのところ鴨頭さんの「コミュニケーションの学校」を受講しての記事も書いた流れでもう1本。今回は、コミュニケーション能力を高めるためには演劇の練習が有効だという話題です。

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企業が新卒採用で採りたい人材像として必ず上げるのは「コミュニケーション能力」

帝国データバンクの2020年調査でも第2位がコミュニケーション能力

毎年、就職活動のシーズンになると、メディアで企業の求める人材像特集が組まれたりします。たいてい挙げられるのは、「積極的な人材」、「自分で考え動くことのできる人材」「コミュニケーション力が高い人材」等々です。

昨2020年の11月に帝国データバンクから企業の意識調査結果が発表されましたが(新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年10月))、その中で採用活動でどのような人材像を求めるかについての回答も、トップの「意欲的である」(43.1%)に次ぐ第2位が「コミュニケーション能力が高い」(41.0%)となっていました(ちなみに以降は「素直である」、「真面目、または誠実な人柄である」など)。

どの企業もコミュニケーション能力の足りない社員に苦労している実態に

このような項目に上がっているということは、企業側が「意欲的でない社員」、「コミュニケーション能力の低い社員」は仕事ができないと感じていることを示しています。この力が足りない社員が多いかどうかはさておき、こんな社員を採用して失敗したなとの経験を持っているわけです。

今、会社でコミュニケーションが円滑に回っているかといえば、残念ながら・・

仕事上のコミュニケーションの問題点

会社でのコミュニケーションでは主として3つの問題点を抱えていると思います。

  • 質問に対して的確に答えない
  • 話した内容、主旨が正しく伝わらない
  • 伝えるべきことを伝えていない(抜けている)

会議やミーティングで質問に対して的確に回答が出てこない

僕の会社員としての経験を振り返っても、コミュニケーションの問題はよく感じていました。上司の質問に対して「あさっての方向」の答えをする。側で聞いていて、いやいや訊かれたことはそこじゃないだろ、と心の中で突っ込んでいたこともあります。

会議やミーティングでの話が長い人もいます。よくよく聞いていると、訊かれたことの答えに至るまでに余計な話が多過ぎるので長くなる。逆に答えた後になってもまだ言い足りないのか、延々と話し過ぎるパターンもあります。自分の知っていることすべて話さないと気が済まないように見えます。

話の長い人の気持ち、わかります。なぜって僕自身もそういう傾向がありますから。質問の意味は分かっているけれど、その答えを簡単に述べるだけでなく、この質問者がきっと知らない、でも僕は大事だと思っている情報をぜひ知ってもらいたい。この気持ちがあるのですね。

会社のメンバーに伝わるには何度も同じ話をする必要がある

次に「話した内容、主旨が正しく伝わらない」問題。

上司からメンバーに対する指示が正しく伝わらないケースなどですね。

若い頃などは上司の指示を勘違いして理解することも多かったですし、そんなときにはもっとはっきり言ってくれればいいのに・・などと心で思ったことも一度ではありません。

今は逆に、メンバーにこういう方針でやっていこうと言ってもなかなか伝わらない。この間言ったろう、というようなことが多々あります。

まあ、一度や二度では伝わるものではないよな、今まではそう思っていました。

ビリギャルを書いた坪田信貴さんは、「大人は『何度言ったらわかるの!」と子どもを叱るけれども、子供たちを相手に何度言えばわかってもらえるのかの統計をとったら、平均532回でわかってもらえた」と言っています(「何度言ったらわかるの!」の答えは532回です。【Kaizen Platform 公式note】)。

まあ、会社では大人同士が相手となるので532回まではいかないとしても、「何度も言い続けることが大事」なんだと自分に言い聞かせていました。

こちらが知らない情報を前提に話をする人も多い

もうひとつ、困るのが、「伝えるべきことを伝えていない」ケースです。色々と説明を加えてくれるのだけれども、そもそもこの話の前提の部分は、俺、今まで聞いたことないよね。だから、なぜそんな論理になるのかわからないよ、という場面です。

話しているほうはこちらが当然知っているという前提で話してくる。でもこちらからしたら今まで聞いたこともない。もし聞いていたらそんなことさせてないよ、という場面で、これは意外に仕事としてのマイナスが大きく、後の祭りになりがちです。

なぜ僕らはコミュニケーションが下手なのだろうか?

コミュニケーション不全は会社(組織)にとって大きなマイナス

これらを振り返ってみると、コミュニケーションを改善していくことは、仕事の精度を引き上げ、スピードアップを図り、ひいては業績へのマイナスを最小限に、むしろプラスを大きくすることに対する小さくない効果がありそうです。

もう一度コミュニケーション上の問題点を掲示します。

  • 質問に対して的確に答えない
  • 話した内容、主旨が正しく伝わらない
  • 伝えるべきことを伝えていない(抜けている)

このように整理すると、それぞれに解決法はありそうです。たとえば「質問に対して的確に答えない」であれば、相手の質問を正確に理解することに始まり、訊かれていないことを答えることによる相手のイライラする気持ちを想像するなど、色々あることでしょう。

ここではその具体的な解決策は脇に置いておき、なぜ会社や社会においてコミュニケーション上の問題が生まれているのかについて考えてみたいと思います。

僕自身を振り返っても、学校でコミュニケーションの取り方をちゃんと教わって練習した記憶はない

学校時代、すなわち小学校から大学までを振り返ったときに「コミュニケーションの取り方」についてきちんと真正面から向き合って教えてもらった記憶はありません。小学校では週1回ホームルームの時間がありましたし、クラス委員を決めるなどの話し合いの時間が全くなかったわけではありません。しかしそこでもコミュニケーションのやり方を一から習ったわけではありません。

社会人になってから、コミュニケーション研修のような講座を受けたことはありますしメンバーに受けてもらったこともあります。
講座を後ろからオブザーブしていたこともあります。

たいていは「自分が話すよりも相手の話を傾聴する」ことが大切という主題だったように思います。

それはその通りですしどの講座も良いことを教えてくれるのですが、今回鴨頭さんの「コミュニケーションの学校」を受講してみるとこれまでの講座には実践、練習の量が足りていなかったなと気づきます。

つまり頭では理解してもトレーニング量が足りないので身につかず結局時とともに忘れてしまうのです。

英国の学校では授業科目に「演劇」がある

ブレディみかこさんの著書「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の中に、中学校で演劇の授業があったり発表会があったりするシーンが出てきます。

本ではそこで繰り広げられる子供同士の人種差別的発言やその後に仲を深めていく様子が描かれているのですが、実は演劇の授業そのものがコミュニケーション力をつけていく実践の場になっていると思います。

ひるがえって日本の学校には昔の言葉でいうところの「学芸会」というものはありますがこれはあくまでイベント的要素が強く授業の科目ではありません。
正確に言えば、少なくとも僕らのころにはありませんでした。

劇作家・平田オリザさんに教わったこと

もう10年近く前に日本を代表する劇作家の平田オリザが講師を務めるコミュニケーション講座を受講したことがあります。

そこでは今起きているコミュニケーション上の問題を詳らかに解説する授業もありましたが、何より平田オリザさんならではといえるのは演劇の実演課題が盛り込まれていた点でした。

平田さんの劇団の俳優や脚本家の方々が10人くらい講座のサポートにいらっしゃり、受講生がグループに別れて最終日に発表する短時間の演劇のストーリー作成、台本作成から衣装を考え、練習し、本番を迎えるまでの一連の取り組みをお手伝いいただきました。

ここでは詳細を省きますがやはり実践が一番勉強になると感じたものでした。

実際当時の平田オリザさんは大阪大学で演劇をもとにしたコミュニケーションの講座を持っていらっしゃいましたし、週一度の割合で福島県いわき市にある県立高校でも演劇授業をされており、演劇がコミュニケーション力の向上に大きな力となるとの理解を教育界に広めていこうとされていました。

平田さんは「日本の子供たちは親と先生と友達としか話したことがない。だから親や先生以外の大人を前にするとどのように話してよいかわからない」とおっしゃっていました。

高校生に「特急列車の中でたまたま隣り合わせになった人(他人)と世間話をする」という劇をやらせると台本があってもまったくうまくできないのでそうです。上述の理由、つまり他人と話した経験がないから。

だとするとなかなか日常生活の中で親・先生以外の大人とコミュニケーションを取ることが難しい現代ではそれを仮想体験できる演劇のトレーニングが有効というのは納得がいきますね。

マーケティング・コンサルタントの藤村正宏さんも演劇に取り組んでいる

スコット藤村さんのニックネームで活躍されているマーケティングコンサルタントの藤村正宏さんもここ数年仲間の皆さんと演劇に取り組んでいらっしゃいます。

藤村さんは学生時代に本格的に演劇に取り組んでいらしたかたですが、ご自身のブログで、演劇はシナリオ力、演出力、プロジェクト能力などが養われるのでビジネスに極めて有効とおっしゃっています。

マーケティングコンサルタント藤村正宏の自伝:11 演劇がビジネスに役立つ3つの理由

企業においても演劇研修をやるのは意味がありそうです

こう考えてくると企業の中でも演劇研修を行うことは社員のコミュニケーション力向上には大いに効果がありそうです。

いや何も研修のかたちを取らなくてもよい。年末の忘年会を兼ねて各部対抗演劇発表会をやってもよいと思います。

一つひとつの発表が終わった都度、聞いている他の社員から講評をもらえばそれも学びになりますし、おそらくは上手なグループとそうでないグループの違いを目の当たりにするだけでもたくさん気づきがありそうです。

コロナが明けたらぜひやってみたいと考えています。

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この記事を書いた人

山田文彦
 株式会社クレハトレーディング代表取締役社長
 社員の力をどうやって高めていくか? これが毎日考えているテーマ
 日本一の会社にしたいと真面目に考えています

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