プロローグ
前回で結果を出すには、結果よりもプロセスをていねいに見ていかなければいけないとの話を書きました。
この話は誰にとっても納得できるものだと思います。
でも実際の仕事の場面ではあまりていねいにプロセスを見ようとしないんですね。
上司は結果でしかマネージメントせずにやりかたはメンバーに丸投げだったり、担当者は担当者で自分のやりかたに口を挟まれるのを嫌がったりするものです。
これはどのような気持ちからくるのでしょうか。
実際の仕事の場面でプロセスを大切にするにはどうしたらよいのでしょうか。
プロセスよりもつい結果に目がいきがちになる理由4つ
- 結果は誰が見ても単純でわかりやすい
- プロセスは多くの要素が入り込むので複雑で面倒くさい
- プロセスの計画はていねいに行うと際限がない
- うまくいかなかったプロセスを振り返るのは苦痛
結果は誰が見ても単純でわかりやすい
結果ってわかりやすいですね。予算を達成した、新規売り込みに成功した、今月は前年比マイナスに終わった、競合社に注文を持っていかれたなどなど。
なぜわかりやすいかといえば「イチゼロ」の世界だからです。できた、できないの2つに一つ。これ以上わかりやすいことはありません。
たとえば商談がうまくいって会社に戻って上司に報告するのは晴れがましい気持ちになるものです。上司もよくやったとほめてくれます。まわりの仲間にも笑みがこぼれる瞬間。
営業冥利に尽きるとはまさにこの瞬間です。
プロセスは多くの要素が入り込むので複雑で面倒くさい
一方で結果が出るまでのプロセス、過程はなかなか面倒くさい話になります。
まず、たいていは良い悪いの二択で考えられないことが挙げられます。
上で書いたように結果はできた、できなかったの「イチゼロ」で考えればよいので簡単なのですが、プロセスとなると単にできた、よかったのようなことはなく、まあまあ計画通りに進んだけれどもう少しこうしておけばよかったとか、プロセス全体とすればもっとよく練ってから取り掛かったほうがよかったけれど、こことここはよかったなど、詳細に入り込んでいくことになるため、複雑で面倒な話になります。
またプロセスに正解はありません。上司がこのやりかたの方がよいと思っていてもメンバーは違う方法で成果を出すなどということはよくある話です。
そうすると上司はプロセスについて意見を言うと後で恥かくかも……などと考えたりしそうです。
プロセスの計画はていねいに行うと際限がない
また、そもそもプロセスを計画する段階でも、色々な場面を想定すると選択の分岐がどんどん増えてキリがなくなります。それは将棋の棋士が何手も先まで展開を想定してどの指し手が最善かを判断するのに似ています。現代将棋は持ち時間制の勝負が多くなっていますが、そうでない試合は何日もかかるものです。
我々がプロセスの計画を立てるときも同様で、時間やエネルギーの制約からどこかでこの辺まで考えておけばいいだろうとの判断をしなければなりません。
人は判断することにエネルギーを使うのですね。無条件に2択で決められる結果に比べてくたびれる工程です。
うまくいかなかったプロセスを振り返るのは苦痛
実は会社でこんなことを言われています。
「新しいことに挑戦しろ」とか「一歩を踏み出せ」とか言うけれど、いざ挑戦してうまくいかなかったら経営会議に顛末の報告をしなければならず、そのための資料作りが大変だ、あんなことをさせられるくらいなら挑戦なんかしないほうがましだ。
これはなかなか難しい問題です。前回の記事の中で本田宗一郎さんの言葉を引用したように、大切なことはうまくいったかいかなかったかではなく、うまくいった、いかなかったのはなぜかを掘り下げていく点にあります。
だから振り返りのプロセスは組織や個人の成長には不可欠なのですが、それが仲間の前での公開処刑のように感じる人もいるわけです。
それではプロセスを大切にみる組織を作るにはどうしたらよいのか
プロセスよりも結果に目が行きがちな理由はおおむね上で書いたことによります。
それではどうしたらプロセスにより着目していくことができるでしょうか。
- プロセス重視の評価制度(人事制度)を作る
- 予算の作りかたを変える
- 仕事を小さく分けて分担する
この3つが有効だと考えています。
プロセス重視の評価制度(人事制度)を作る
もしあなたに人事制度、評価制度を改定したり新たに構築したりする権限があるのでしたら、まずはここに手をつけるべきですね。
セールスパーソンの評価が売上げや利益の金額(前年比や予算達成度合いなど)で決められるのだとしたら、どんなに声高にプロセスが大事と言っても結果の数字ばかり見るようになるのは当たり前です。
ですから本当にプロセスに目を向ける集団にしたければ評価制度、ひいては人事制度の中でプロセスを評価するしくみにしなければなりません。
具体的には、結果数字よりもそれを達成するための具体的な行動として何を計画したのか、その行動はちゃんとできたのかできなかったのかをていねいに振り返って評価することです。
前回スノーピークの例を紹介しましたが、店舗の売上数字よりもその売上げを上げるためにチラシを何百枚配ると決めるようなことですね。
予算の作りかたを変える
もし全社的に人事制度を変えることまではできないけれども自分の組織内の予算の作りかたを見直すことはできるのであれば、上の「人事制度、評価制度の改定」で書いたような具体的な行動計画を予算に折り込むことが有用だと思います。
もちろん会社には数字で提出することが求められるでしょうが、自分の組織内では数字を予算化するのでなくそのためのプロセス(行動計画)まで細かく予算に書き込んでいくわけです。
たとえ直接の評価項目になっていなくても、予算会議や毎月の営業会議の中で、期初に決めた行動計画それぞれについてどこまでできたか、できなかったかを報告するようになれば、皆おのずとプロセスをていねいに振り返って報告するようになります。
これを1年間続けることができたら翌年からは予算編成のときに行動プロセスに上手に落とし込むことができるようになるはずです。
仕事を小さく分けて分担する
別のやりかたとしては、これまで一人が担当していた客先、商品、エリアなどについて、さらに分担を分けるやりかたもありますね。
具体的には客先、商品、エリアをそれぞれさらに細分化するのでなく、その取り組みを時系列に分けてしまうのです。
たとえばある得意先に商品Aを新規に売り込もうと計画するのであれば、得意先の営業や購買の現状を調べて同業の業界における商品Aのマーケットデータを調査してまとめるまでを行う係と、それをもとに提案書にまとめて商談する係など、営業プロセスを分けて担当を振り分けるのです。
そうすると誰それが担当したところはよくできたけれどもその後工程がね……などとなるでしょうから否が応でもプロセスに着目せざるを得なくなります。
また中にはマーケット調査が得意な人もいれば顧客との商談そのものが好きな担当もいますから、メンバーの得手不得手を見極めた上で得意な仕事をアサインするようになれば、より成果が出やすくなりますし本人たちにとっても幸せなことでしょう。
まとめ
まとめると、次のようになります。
人間、プロセスが大事とわかっていてもつい結果ばかり見てしまうものです。その理由としては次のようなことが挙げられます。
- 結果は誰が見ても単純でわかりやすい
- プロセスは多くの要素が入り込むので複雑で面倒くさい
- プロセスの計画は丁寧に行うと際限がない
- うまくいかなかったプロセスを振り返るのは苦痛
このような人間の習性を乗り越え、プロセスをていねいに見て仕事を進める組織を作るには、
- プロセス重視の評価制度(人事制度)を作る
- 予算の作りかたを変える
- 仕事を小さく分けて分担する
などを進めていくことが有効です。
エピローグ
とはいえ、多くのセールスパーソンは長年「営業は数字を挙げてナンボ」と育てられていますから、すぐに変わるものではありません。
今回述べたことは組織文化を変革することともいえ、年数をかけてじっくり取り組むたぐいのテーマです。
メンバーがなかなかついてきてくれなくても、あきらめずに時間をかけて変革していく意志の強さ、粘り強さがリーダーに求められますね。
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