1月7日、政府から関東の1都3県を対象として「緊急事態宣言」が発表されました。いよいよ来たか〜という感じですね。在宅勤務の傍らで耳に入ってくるテレビ報道の音声も再びコロナ一色となっています。ただ報道はいたずらに不安を煽っている節もあり、本当のところはどうなのだろう。日頃から社員や家族に対しても「コロナについて正しい知識を持って正しく怖がろう」と言っていることもあり、巷に溢れる情報を自分なりに整理してみることにしました。直近の医師・病院のサイトを中心に素人にわかりやすく説明しているページを探してまとめたのが以下になります。自分でも勉強しながらかなり注意してテキストを起こしているつもりですが、もし間違っていたらごめんなさい。
今回はPCR検査について整理します。芸能界やスポーツ界でも連日のように誰かしら新規感染が発表されています。そこでまず疑問となるのが新規感染とPCR陽性の関係。どうも見ていると発表されているのはPCR検査陽性と診断された人の数のようで、この人たちはすなわち新型コロナに感染した人たちということなのでしょうか。
この問題を考える中で、昨秋の報道に触れたいと思います。体操の内村航平選⼿がPCR 検査で陽性と診断され改めて3 か所の病院で検査を⾏った結果、すべて陰性だったと。
ある病院のブログ記事には、医師全員にPCRを実施したところ4人が陽性と出たが、その内2人は全く無症状で行動履歴からも感染と判断するのは怪しいと考え、CT画像診断を行った上で非感染と結論づけた。他の2人はCT画像上もCovid19と診断された、とあります。
これ、どういうことでしょうか。PCR陽性でもコロナにかかっていないということがあるのでしょうか。
統計学の「感度」「特異度」「陽性的中率」「陰性的中率」とは
まずはPCR検査の信頼性について正しい知識を持つことが必要です。誰もが、どんな検査でも100%正しい結果が出るわけではないことは理解していると思います。今回は、それを数字で示してみます。
PCRで言えば、
(1)本当に感染している人がPCR検査で正しく「陽性」と診断されるパーセンテージを「感度」と言います。
(2)また感染していない人がPCR検査で正しく「陰性」と診断されるパーセンテージを「特異度」と言います。
次に似たような意味合いですが、違うものを指す数字として
(3)PCR「陽性」と診断された人が本当に感染者であるパーセンテージを「陽性的中率」と言います。
(4)同様にPCR「陰性」と診断された人が本当に感染者でないパーセンテージを「陰性的中率」と言います。
わかりにくいので図解すると以下のようになります。
(表1)
感染者 | 非感染者 | |
PCR陽性 | a(真陽性) | c(偽陽性) |
PCR陰性 | b(偽陰性) | d(真陰性) |
上表で
感度 = a /(a+b)
特異度 = d /(c+d)
陽性的中率 = a /(a + c)
陰性的中率 = d /(b + d)
また、感染率 = (a + b)/ (a + b + c + d)で示されることは理解しやすいと思います。
この内、PCR検査の感度と特異度、すなわち感染者のうちどれだけの人が正しく陽性と診断されるか、非感染者がどれだけ正しく陰性と診断されるかについては、長く感度は70%程度、特異度は98~99%と言われてきました。それが、昨年9月29日に北海道大学の研究により感度は約90%、特異度は99.9%と発表されました。
とはいえ、PCR検査は採取する部屋のクリーン性、つまり連日PCR検査の検体を採取していて患者起因でないウイルスを検知してしまう可能性のあるなし等にも影響を受けるので、慎重なドクター、学者の中にはまだ感度70%と見ている人も多い。医師、学者は検査結果が誤りであるリスクを常に見積もっておく必要があるので、慎重になるとどうしても低め、低めに考えてしまうことは理解できますね。
一方、患者側つまり我々にとって大事なのは、「陽性的中率」「陰性的中率」です。つまり自分が受けたPCR結果を伝えられた時に、その判定が正しいかどうかが最大関心事です。ところがこの的中率は母集団の性格によって大きく変わってきます。それを説明すると・・・
もしも100人の会社でクラスターが起こったら・・・
具体的な数字を使って理解しましょう。
仮に社員100人の会社を想定します。この100人がホテルの宴会場を貸し切って飲めや歌えのどんちゃん騒ぎの新年会を行ったところ、翌日から何人かの社員に高熱やだるさ、味覚異常が出たと考えてください。異常を訴えた社員にPCR検査を実施したところ「陽性」診断が出ました。これはクラスターですね。直ちに他の社員にもPCRを受けてもらうことにしました。
このケースでは多くの社員が濃厚接触者となるでしょうし、その結果かなりの確率で感染しているものと考えることが妥当です。仮に感染率を約50%と置きましょう。
100人の社員の感染率が約50%ですから感染者は50人くらいとなります。この50人のPCR検査の結果は、感度70%で計算すると 50 X 0.7 = 35人が陽性判定されることになり、残り15人は検査では発見できない「偽陰性」となります。
一方、非感染の50人に対するPCR結果は特異度98%で計算すると、50 X 0.98 = 49人が陰性判定となり、1人が感染していないのに陽性と判定される「偽陽性」です(表2)。
(表2)
感染者 | 非感染者 | 合計 | ||
PCR陽性 | 35 a(真陽性) |
1 c(偽陽性) |
36 | 陽性的中率 = 97% |
PCR陰性 | 15 b(偽陰性) |
49 d(真陰性) |
64 | 陰性的中率 = 23% |
合計 | 50 | 50 | 100 | 【感染率=50%】 |
上表の通り、陽性的中率は97%と極めて高く、このケースでPCR陽性と診断されたら、ほぼ感染したと考えて間違いありません。しかし陰性的中率は23%しかないので、PCR陰性と診断されても4人に3人は見逃していることになります。
ですから保健所から濃厚接触者と判定されると、たとえPCR陰性であっても2週間は外出禁止となっているわけです(感染から発症までの潜伏期間は1日から12.5日(多くは5日から6日)と言われている)。今は2週間の基準が10日に変更されていますが。
仮に、北海道大の発表に準じて感度(感染者を正しく陽性と診断できる確率)を90%、特異度(非感染者を正しく陰性と診断できる確率)を99.9%として計算すると次のようになります。
(表3)
感染者 | 非感染者 | 合計 | ||
PCR陽性 | 45 a(真陽性) |
0 c(偽陽性) |
45 | 陽性的中率 = 100% |
PCR陰性 | 5 b(偽陰性) |
50 d(真陰性) |
55 | 陰性的中率 = 90% |
合計 | 50 | 50 | 100 | 【感染率=50%】 |
このケースでは陽性的中率100%、陰性的中率90%とかなり上昇しますが、それでも陰性と判定された10人にひとりは実は感染者ということになります。
社員の家族にPCR陽性者が出た場合、その社員も濃厚接触者と判定されますが、そこで残りの100人の社員全員にPCR検査を受けてもらうとどういう結果となるでしょう。
このケースでは、社員100人の感染率は一般社会と同じ程度と考えることができます。現在東京都の感染者数は、この2週間(1月8日現在)は次ページの表の通りで、新規陽性者数合計は16,350人です。中には重篤患者となり2週間で治らない人もいるでしょうが、軽症、無症状の人もいます。すでに述べた通り陽性と判断されてもその内の真の感染者はもっと少ないことも考えれば、この1万6千人が現時点での都内の感染者数と見て概ね間違いではないと思いますが、ここでは多めに2万8千人と見積もりましょう(後で計算しやすくするため)。
東京都民の人口は約1,400万人ですから、感染率は28,000/14,000,000 = 0.2%となります(実際のところは上で述べた通り、感染率はもっと少ないものと想定されます)。そうすると当社100人の中には一人の感染者もいないことになりますが、先ほどの家族にPCR陽性者が出た人は感染しているものと仮におくと、感染率1%くらいとなります。東京都よりもかなり高い感染率となりますが、この前提で進めましょう。
100人の社員の感染率1%で感染者は約1人とすると、この人に対するPCR検査の結果は、感度70%で計算すると 1X 0.7 = 0.7人、まあ切り上げて1人が陽性判定されることになり、「偽陰性」はゼロ人となります。
一方、非感染の99人に対するPCR結果は特異度98%で計算すると、99 X 0.98 = 97人が陰性判定となり、2人が感染していないのに陽性と判定される「偽陽性」です(表4)。
(表4)
感染者 | 非感染者 | 合計 | ||
PCR陽性 | 1(正しくは0.7) a(真陽性) |
2(正しくは2.0) c(偽陽性) |
3(正しくは2.7) | 陽性的中率 = 33% (正しくは25.9) |
PCR陰性 | 0(正しくは0.3) b(偽陰性) |
97(正しくは97.0) d(真陰性) |
97(正しくは97.3) | 陰性的中率 = 100% (正しくは99.7) |
合計 | 1 | 99 | 100 | 【感染率=1%】 |
このケース、すなわち感染率が低い集団においては、陰性的中率は高くなりほぼ信頼できますが、陽性的中率は33%、正確には25.9%しかないので、陽性と判定されても4人に3人は非感染となります。
東京都全体ではどうなるでしょう
東京都全体では・・
次にこの計算を東京全体で見てみましょう。先ほど計算した感染率0.2%を使うと感度70%、特異度98%で表5の通りとなります。
(表5)
感染者 | 非感染者 | 合計 | ||
PCR陽性 |
19,600 a(真陽性) |
279,440 c(偽陽性) |
299,040 | 陽性的中率 = 6.6% |
PCR陰性 |
8,400 b(偽陰性) |
13,692,560 d(真陰性) |
13,700,960 | 陰性的中率 = 99.9% |
合計 | 28,000 | 13,972,000 | 14,000,000 | 【感染率=0.2%】 |
このケースでは陰性と判定されたらまず間違いありませんが、陽性と診断されても当たっている確率は7%に満たないことになります。これが内村選手が陽性判定後に3回測ったらいずれも陰性だったことのからくりです。
念のため申し上げておくと、ここでは統計計算の説明を目的としていて前提数字を置いていますが、現在の医学会では実際の感染率は上表の前提よりもさらに1オーダー低いと言われています。
それはさておき上表で話を進めると、この30万人の人たちの陽性判定者の感染経路を調査するのにどれだけの労力、コストがかかるのでしょう。また陽性的中率は6.6%しかないわけですから、この陽性診断を下された30万人弱の人たちはおそらく内村選手のように2回目、3回目の検査を受けることになります。
さらに1400万人全員にPCR検査を実施するコストは、まあひと頃の2万円、3万円からはだいぶ下がってきたと言われ、3000円というものも登場していますが、それでも3000円x1400万=420億円です。一度PCRを受けたらその結果が何日有効と考えるか判断の難しいところですが、毎週一回受けるとすると1年間で420億円x52週=2兆円です。いくら東京都の財政規模が大きいと言っても一般会計予算は7兆円ですから、その三分の一の水準です。
ひと頃テレビコメンテーターがしたり顔でPCRの検査数を増やせと言っていましたが、最近その論調が聞かれなくなったのはこういうわけなのです。これはPCR検査に限ったことではなく、抗体検査やCT画像診断についても言えることです。したがって検査結果を鵜呑みにするのではなく、症状に目を向けることが大切ということです。
冷静なドクターは、元々冬には風邪を引く人が増えてくる。ただ今回は風邪の症状が出ると皆念のためPCRを受けるので、上記の検査誤差を考えれば夏の頃よりも陽性者の増加が大きくなるのは当たり前と言っています。
私たちが気をつけなければならないことは・・
もちろんコロナは怖い病気です。PCR検査には誤差があるから陽性と言われても心配ないなどと考えてよいわけはありませんし、私たちは感染から身を守るために細心の努力を続けていかなければなりません。
でも、ただ怖がっているだけでは何にもなりません。今、発熱するとPCRを受けることになって、検査誤差からコロナ感染でなくても陽性診断されて入院、家族も家から一歩も出られなくなる可能性が高い。三密を避けるなどのコロナ対策はもちろんですが、それ以前にまずは風邪の症状を起こさないよう「睡眠を充分に取る」「栄養をしっかり摂る」「暖かく過ごす」「運動不足を避ける」など風邪を引かないための生活パターンをしっかり確立することが大切です。
こちらの記事もどうぞ。新型コロナを正しく怖がるために勉強しました(2)〜免疫のこと
参考資料
日本災害看護学会に対する神戸協同病院 上田耕蔵院長からの情報提供ページ
日本災害看護学会 COVID-19災害プロジェクト(2020.5.9~) 新型コロナQ&Aその27−3
武田クリニック
コロナ雑感:PCR検査の問題点(11/16)
京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 宮沢孝幸准教授
「コロナの現状と感染対策について」
国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室医長国際診療部 副部長忽那賢志
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かねしろクリニック
SARS-CoV-2のPCR陽性者が増えていますがコロナウイルスは冬に流行るので
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