新型コロナについて連日色々な報道がなされています。また去年の緊急事態宣言の頃に比べて研究もかなり進んできました。逆に情報過多になって私自身も頭が少し混乱してきました。そこで前回「新型コロナを正しく怖がるために勉強しました(1)〜PCR陽性が増えています」でPCR検査について整理したのに続いて、今回は新型コロナの怖いところは何かについて、様々なドクターや病院のサイトや本で勉強したので整理しておこうと思います。例によって誤りがあればごめんなさい。ご指摘いただけるとありがたいです。
新型コロナと風邪、インフルエンザとの違い
新型コロナの潜伏期間(感染する機会から何らかの症状を発症するまでの期間)には1~14日と幅がありますが、多くの人がおよそ4~5日で発症します。同種の病気、風邪やインフルエンザと比較すると、風邪はインフルエンザに比べるとゆっくりと発症し、微熱、鼻水、ノドの痛み、咳などが数日続くのに対してインフルエンザは比較的急に発症し、高熱と咳、ノドの痛み、鼻水、頭痛、関節痛などが3~5日続きます。しかし、風邪やインフルエンザが新型コロナのように1週間以上続くことは比較的稀です(ただし咳や痰の症状だけが2週間程度残ることはよくあります)。新型コロナと風邪、インフルエンザ、アレルギー性鼻炎・結膜炎の症状とを比べると、以下の図のようになります。
項目は、左から、
Cough「咳」
Fever「発熱」
Body Aches「筋肉痛」
Chills/Chills with Shaking「寒気」
Fatigue「倦怠感」
Headache「頭痛」
Diarrhea「下痢」
Sore Throat「咽頭痛」
Shortness of Breath「息切れ」
Loss of Taste or Smell「味覚・嗅覚障害」
Chest Pain「胸痛」
Runny Nose「鼻水」
Sneezing「くしゃみ」
Watery Eyes「涙」
この表は、WHOあるいはCDCが発表したものをミネソタの公的機関がチャート化したものです(Carver County, Minnesota | COVID-19 SYMPTOMS vs. Flu, Cold & Allergies)。他にも、Department of Health and Senior Servicesのサイトなど探すと出てきます。上のチャートは2020年5月1日に更新されたもので、私が見つけた中ではこれが最新でしたが、探せばより新しい情報もあることと思います。
チャートの症状の中でも、特に「息切れ」「嗅覚障害・味覚障害」の症状は、風邪やインフルエンザでは稀な症状なので、新型コロナの可能性を疑うきっかけになると言われています。また新型コロナに特徴的なのは、症状の続く期間の長さで、特に重症化する事例では、発症から1週間前後で肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が強くなっています。
重症化するのは?
重症化する人の割合は決して高くはない
多くの感染者(約8割)は軽症ないし無症状のまま治癒しますが、約5%の症例で集中治療が必要になります。そして厚生労働省によれば1.6%の人が重症化し、1.0%が死亡しています(厚生労働省 「(2020年12月時点) 新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識」)。さらに新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは高齢者と持病のある方と言われています。
重症化しやすい人は・・
では持病の有無による違いはどうでしょうか。以下の人は、年齢に関係なく新型コロナに感染した際に重症化のリスクが高くなるとのデータが発表されています。
(以下は、YAHOO JAPANニュースから忽那賢志さんの記事に出ていた内容です 新型コロナの症状、経過、重症化のリスクと受診の目安(2021年1月)YAHOO JAPANニュース)
持病の有無による重症化のリスク
がん | 重症化リスク3.6倍 |
慢性腎臓病 | 入院リスク増加 |
COPD(慢性閉塞性肺疾患) | 重症化リスク5.7倍 |
固形臓器移植による免疫不全状態 | 致命率上昇 |
肥満(BMI30以上) | 入院リスク2.1倍、死亡リスク1.5倍 |
心不全、冠動脈疾患、心筋症などの重篤な心疾患 | 重症化リスク3.4倍 |
2型糖尿病 | 重症化リスク2.3倍 |
また現在のところデータは限られているものの以下の基礎疾患や習慣のある人は新型コロナに感染した際に重症化のリスクが高まる可能性が指摘されています。
基礎疾患、生活習慣等による重症化リスク
喘息(中等症・重症) | 人工呼吸器装着期間の延長 |
脳血管疾患 | 重症化リスク1.8倍、死亡リスク2.4倍 |
高血圧症 | 重症化リスク2倍、死亡リスク2.2倍 |
血液移植・骨髄移植、原発性免疫不全、HIV、コルチコステロイドの使用、その他の免疫抑制薬の使用による免疫不全状態 | 潰瘍性大腸炎患者のうちステロイド使用者で死亡リスク6.9倍 |
潰瘍性大腸炎患者のうちステロイド使用者で死亡リスク6.9倍 | 肝硬変の重症度に伴い死亡リスク増加(最大28倍) |
妊娠 | 1.7倍人工呼吸器が必要になる |
喫煙 | 重症化リスク1.9倍 |
これらの基礎疾患や習慣は、複数あるほど入院リスクや死亡リスクが高くなることが知られています。
話がやや脱線しますが、マスク着用は感染防止の効果は決して高いとはいえない、何より「三密回避、ソーシャルディスタンシング」が第一で、それが叶わない場合にマスク着用というのが順番です。それなのにマスクをしていないと人非人のように睨まれる一方で、科学的データの裏付けもある「ダイエット」や「禁煙」に取り組もうとする人をあまり聞かないのはどういうわけでしょう(笑)。
そもそも重症化とは? なぜ重症化するの?
さて、上記の通り感染者全体に占める重症化比率は小さいとはいえ、ひとたび重症化すると深刻な状況に陥る点で怖い病気であることに違いありません。それでは、上記のような基礎疾患があったり生活習慣上の問題があったりする以外に、「軽症で済む人」と「重症化する人」の違いはないのでしょうか。
ここで、重症化とはどんな状態をいうのかについて整理しましょう。医学的に厳密な定義は置いておくとして、順天堂大学医学部の小林弘幸教授は一般にわかりやすい説明として、「重症化とはICU(集中治療室)での治療が必要な状態」なのだと言っています。先に取り上げた厚生労働省の重症化率1.6%とは異なる数字ですが、小林教授は私たちがイメージしやすい数字を使って「感染しても約80%の患者が無症状か軽症で済むものの、高齢者や基礎疾患のある患者を中心に約15%は重症肺炎になり、約5%は致死的なARDS(急性呼吸促拍症候群)という呼吸不全に至る。この5%を重症化という」と述べています。そして重症化から回復しない場合は、数日のうちに呼吸不全は呼吸困難へと進行し、深刻な炎症に陥った心肺は機能しなくなるため、ECMO(エクモ)という人工心肺装置を装着。ここまで至ると、残念ながら8割方の患者は命を落とすことになるのだそうです。
また、実はウイルスの毒性だけならインフルエンザのほうが怖いのだそうで、コロナ感染者の症状悪化の原因はウイルスの病原性だけではないと言っています。その正体がテレビ報道でも説明されている「サイトカインストーム」です。
免疫の働き
それでは、ここでサイトカインストームの説明の前に我々の体が感染症のウィルスに対してどのように対応しているのかについて整理します。
【免疫以前の段階】
まずは、体が異物の侵入を阻止しようと、”物理的な防御”と”化学的な防御”の二つが体の中で起こります。
物理的な防御というのは、皮膚、粘膜、くしゃみや咳によって、ウイルスや細菌を体内に侵入するのを防ぐことを言います。
化学的な防御というのは、汗や唾液、涙などに含まれており、細菌の細胞壁を壊してくれる酵素である、リゾチームや、胃に含まれる胃酸による防御のことです。
【第1段階】
続いて、物理的・化学的防御では対処しきれずに、体外から体内に異物が入ってきてしまった際に、自然免疫という免疫が働きます。侵入してきた病原体を放置することは危険なので、まずは自然免疫 (好中球、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞など)が即迎撃体制に入ります。何をするかというと、ウィルスや細菌を食べてしまうのです。
【第2段階】
しかし、たいていの場合は自然免疫だけでウイルスを完全に制圧できません。第1段階をくぐり抜けてきます。そこで第2段階で記載したように自然免疫が戦っている間に、樹状細胞が運んできたウィルス情報を見せられたリンパ球、具体的には「T細胞」と「B細胞」の出番です。。T細胞やB細胞は体内に何十億個もあります。その一人ひとりにウィルス情報を見せながら、そのウィルスをやっつけられるT細胞、B細胞を見つけます。対応できる細胞が見つかると今度はその細胞が細胞分裂を繰り返し数日中に数百、数千と増えます。病原体に感染するとリンパ節が腫れるのはこのせいです。そして増殖したT細胞とB細胞は直ちに感染部位へと出動します。これらを獲得免疫といいます。
キラーT細胞:ナチュラルキラー細胞(NK細胞)のように異常細胞をむやみやたらに攻撃するのではなく、自分が対応できるウィルスに感染した細胞を見つけてそれを容赦なく殺します。
ヘルパーT細胞:他の免疫細胞、例えば第2段階で取り上げたウィルスを食べる細胞たちに指示を出して病原体や感染した細胞を食べさせます。またB細胞に対しこのウィルス(抗原)をやっつけられる抗体を作るよう命令します。
B細胞:ヘルパーT細胞の指示を受けて、1秒間に最大2000個のスピードで抗体を作って放出します。抗体に取り憑かれたウィルスは他の細胞に感染できなくなるし、ここにウィルスがいるぞと免疫細胞たちに知らせるフラッグが立ちます。またたくさんのウィルスを集めて固めるので、そのウィルスは食細胞の餌になります。
【第3段階】
いよいよ最終ステージです。ここで活躍するのはレギュラトリーT細胞 (制御性T細胞、Tレグ細胞)です。上記により体内は戦い終わって荒れた戦場の状態です。レギュラトリーT細胞は、まず戦いが本当に終わったかを判断します。これ以上戦う必要がないと判断したら、免疫細胞に停戦指令を出します。これを聞いた細胞は崩れ落ち、そして死にます。傷口に見られる膿はこれです。新型コロナではこれが肺の中に溜まる。レギュラトリーT細胞は、食細胞たちにこの残骸を食べるように指令を出すというわけです。
【その後】
以上が一連の免疫細胞の働きです。抗体を作るB細胞の一部は記憶細胞に変化してその後何十年も抗体の作り方を覚えています。そして再び同じ病原体に出くわすとすぐに正しい抗体を作ります。最初に感染したときには第3段階の免疫細胞が動き出すまでに数日かかるところ、記憶細胞はもっと素早く抗体を作るので感染前に食い止められることもあります。ただ、上で数十年と言いましたが、インフルエンザウイルスなど一部のウイルスでは、免疫は数週間、数ヶ月しか持たない。新型コロナウイルスに対してはどうかという点はまだ研究中です。またワクチンとはウイルスに似せた、それでいて人体に害のないものを作って免疫細胞に覚えさせる働きをするもので、これも研究が進められています。
サイトカインストーム
上で述べたようにひとたびウィルスが入り込んでくると、それに応じて免疫細胞間で色々な情報をやりとりし、また指令が飛び交います。これらの情報・指令を運んでいるのが「サイトカイン」というタンパク質なのです。最初にウィルス侵入を感知したときにはインターフェロンというサイトカインが放出され、近くの細胞に危険を知らせます。熱が出るのもこの作用です。その後に上で見たように30種類以上のサイトカインがその時々に応じて放出され、免疫作用を進行させます。
これまで説明したように免疫作用は複雑でデリケートな働きをしています。したがってその作用バランスが崩れるときもあります。必要以上に攻撃命令が出されて攻撃性の免疫細胞が作り出されてしまうこともその一つです。わたしたちの身体を守るはずの免疫細胞が火の嵐のように暴走し、全身に炎症を引き起こす免疫の過剰反応をサイトカインストームと呼び、体は危険な状態に陥ります。
新型コロナにおけるサイトカインストームについては、量子科学技術研究開発機構理事長で前大阪大学総長の平野俊夫先生の研究によれば、主に肺組織にいるマクロファージから放出されるサイトカインが“主犯”とされています。サイトカインストーム自体は、インフルエンザなどほかの重症化リスクのあるウイルスでも起こり得ることですが、新型コロナウイルスはとくに起きやすいことが脅威とされています。
(ただしこの分野はなお研究が進められているところで、藤田医科大学教授の西田修氏による「COVID-19重症化の主座はサイトカインストームにあらず」との見解もあります)
私たちが気をつけなければいけないこと
新型コロナのサイトカインストームについて、先の小林教授は、炎症を悪化させるファクターの一つとしてレギュラトリーT細胞の減少を挙げています。新型コロナウイルスに感染し、重症化した患者の血液中からは、このレギュラトリーT細胞を含むT細胞全般が極端に減ってしまっていることがわかっています。原因はまだまだ研究途上ですが、現在のところ、新型コロナウイルスは組織細胞だけでなく、免疫細胞であるT細胞にも感染し、減少させている可能性、炎症を起こしているほかの箇所へ動員されてしまっている可能性や、T細胞が生き続けるために必要な因子が枯渇してしまっている可能性などが考えられています。
免疫力を維持するためにはよい生活習慣
また別の原因として小林教授が指摘しているのは、基礎疾患や生活習慣の乱れです。免疫細胞はわたしたちの身体から生み出される、身体の一部分です。そのため、健康状態を悪化させるような生活習慣や、基礎疾患による臓器の不調があれば、免疫細胞も不健康となり、正常に機能しません。
とくに、レギュラトリーT細胞は腸に多く生息する免疫細胞で、腸内環境が著しく悪化している身体では、新型コロナウイルスが感染する前からレギュラトリーT細胞が少なく、サイトカインストームを起こしやすい状態にあるのではないかと指摘しています。
特にこの基礎疾患や生活習慣の乱れによる“不健康”がレギュラトリーT細胞減少の原因となっているとの説は、実際に国内外における新型コロナウイルスの死亡者の多くが、肥満症、あるいは糖尿病や高血圧などの基礎疾患を抱える患者であることからも注目すべきポイントと言われています。そのような患者は、レギュラトリーT細胞の減少や機能低下によって、そもそもサイトカインの産生を誘発しやすい状態にあると考えられるわけです。
こうした重症化の仕組みからわかるのは、新型コロナウイルスへの対処においては、外からの感染予防のみならず、自らの身体を“健康”に保ち、レギュラトリーT細胞を含む免疫細胞が適切に活動できるような「10割の免疫力」を維持することが非常に重要である、と小林教授は警鐘を鳴らしています。
今さらながら、手を洗うことの重要性
最後にもう一つ、大事なことを申し上げておきます。コロナ禍の初期から「手を洗う」大切さが言われてきました。20秒洗いましょうと言われていましたね。コロナウィルスは外側をエンベロープと呼 ばれる脂質でできた球形の泡状の殻が覆っています。エンベロープというのは封筒という意味で使われる英語ですね。コロナウィルスが石鹸に弱いのは、石鹸が脂質をよく溶かしてエンベロープを壊すからです。千葉県の伊藤医院のサイトによると、「流水手洗い15秒」でウイルスの数が1/100に、「石鹸もみ洗い10秒+流水すすぎ15秒」でなんと1/10000になると書かれています。朝、出社したとき、外出先から戻ったとき、食事の前など、ことあるごとに石鹸で手を洗うことが大切です。
参考文献・WEBサイト
ベン・マルティカ著 水谷淳訳 絶対にかかりたくない人のためのウイルス入門
兵庫医療大学薬学部教授 田中稔之著 初めの一歩は絵で学ぶ免疫学
忽那賢志 新型コロナの症状、経過、重症化のリスクと受診の目安(2021年1月)YAHOO JAPANニュース
順天堂大学医学部教授 小林 弘幸 PRESIDENT Online 新型コロナに感染しても「軽症で済む人」と「重症化する人」の決定的な違い
京都大学再生医科学研究所再生免疫学分野 河本宏研究室 一般の方向け記事:免疫の仕組みを学ぼう!
やさしいLPS編集部 免疫におけるサイトカインの役割や種類~疾患の原因になることも⁉~
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藤田医科大学教授の西田修 M3.com COVID-19重症化の主座はサイトカインストームにあらず
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