プロローグ
ロジカルシンキングのフレームワークに「MECE」という手法があります。
今回仕事で初めて「MECE」を使う場面がありました。
この種のフレームワークはややもするとフレームワークをすることが目的になってしまい、本来狙っていた分析の用を足さないことになることも多い。
今回はフレームワークを行う上で初心者が陥りやすい落とし穴やスムーズに進めるコツのようなものが見えてきましたので共有したいと思います。
MECEとは
MECEは米国の戦略コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに所属していたバーバラ・ミント氏が開発したフレームワークです。
「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(互いに重複せず、全体に漏れがない)」の頭文字を取った略語で、日本語では「モレなくダブりなく」と訳されます。
読み方は「ミッシー」または「ミーシー」です。
そもそもは売上げが下がったり上がったりした要因分析をするときなどに使うために開発されたようです。
例えば小売業で売上げが変化する要因を細かく上げて検討するというときに・・
「チラシを発行した」「単価値下げをした」「販促キャンペーン企画を行った」「天気がよかった(悪かった)」「連休の初日にあたっていた」・・・
など様々な要因が思い浮かびます。
しかしこのように要因項目をリストアップしていくと、そのときに思いつかなかった項目があったり複数の要因項目重なって効果に結びついたりなど、なかなかパーフェクトな分析となりにくい。
そこで「モレなくダブりなく」分析するために、
たとえば売上げを「客単価 X 来店客数」に分け、
「客単価」をさらに「高額購入客の増減」や「前週との比較」などに分けていく
「来店客数」をさらに「毎週来店する客」と「毎週まではこない客」などにに分解する
そうやって売上げ変化の要因はこれと突き止めていくやり方です。
さすが世界に名だたるコンサルティングファームが考え出しただけあって優れたツールだと思います。
特にマーケティングを考えるときのように色々な要素が入り組んでいるものを整理するにはとてもよい方法です。
よくある「MECE」の説明は
「MECE]といえばよくこんな図で表されます。
上図では3つの項目がモレなくダブりなく描かれています。
説明としては「男女別」や「年齢階層別」に分解するのは「モレなくダブりない」分解の例として示されることが多い。
一方「算数が得意な子ども」「国語が得意な子ども」「理科が〜」・・のように分けると算数も理科も得意な子どもも存在するので「ダブり」があると説明されます。
この説明はわかりやすいのですが、現実の仕事の中で使おうとするとこの説明だけではうまくやれないのですね。
狙う市場をリストアップするためのMECEの例
今回はある製品を販売するターゲット市場をどこに定めるかを検討するために市場をMECEで分解するのが狙いです。
このようなケースでは単に「男女別」に分けてもあまり意味はありません。
例えば「洗浄」、洗剤や洗浄機械のようなものの市場をリストアップするのであればこんな風に。
まず洗う対象で分けました。
- 体を洗う
- 住まいや職場を洗う
- 身につけているものを洗う
- 使うものを洗う
この4項目は一見するとレイヤーがバラバラのように見えますが・・
でもそれぞれはダブっているわけではありません。
またおそらく「洗うもの」はなんでもこの4つのどれかにはあてはまる、つまりヌケもなさそうです。
次に「体を洗う」をさらに分けていきます。
- 人の体
- 動植物
本当のことをいうと、「体」とは生き物の体ですから「人」と「動物」以外にも「鳥」や「虫」などもあります。
しかし今回は洗剤・洗浄剤や洗浄機械の市場をリストアップして参入ターゲットを決めることが目的です。
その目的に照らしたときに、「鳥を洗う」「虫を洗う」などがあり得るか・・
ありませんね。
だからここはバサッと切り捨てました。
で、「人の体」の枠の中に、
- 石鹸・ボディソープ
- シャンプー・リンス
- タオル・スポンジ・ブラシ
- 歯磨き・歯ブラシ
- 入浴剤
と、市場の名前を入れていきます。
体と髪に分けて、また石鹸とタオルのように分けて書き出します。
「入浴剤」は洗うもの?と思いましたが、これも後で市場を考えるときには外せないなと思ったので入れています。
本来目的を頭においた柔軟性が必要と思います。
では「身につけているものを洗う」についてはどうでしょうか。
やはり、
- 服・帽子
- 靴
- アクセサリー類
の3つです。
服と帽子を一つにまとめて靴だけ別項目はなぜ?
という気もします。
これは靴は「靴用洗剤」を売っているし、靴を洗うための「ブラシ」も売っています。
だから後々市場を考えるときには分けておいたほうがよいだろうと考えました。
「使うものを洗う」については、
- 乗り物
- 機械(乗り物を除く)・部品・設備・道具
- 料理
に分けました。
使うものってこれだけ?
机や椅子は?パソコンの画面は?食器は?・・・
はい、その通りです。
例えば「乗り物」はこの後に、
「洗車機」「車内掃除機」「雑巾]「外装用洗剤」「カーワックス」「フロアマット洗浄機」「ガラス洗剤」「内装用洗剤(インパネ・手すり・クッション)」と記入しました。
「乗り物」ですから自動車だけでなく電車や航空機なども含まれますから、分けようと思えばいくらでも細かく分けることができますが分類することが目的ではありませんから後の仕事で困らない程度の分け方にとどめています。
上述の机や椅子は、パソコンの画面は「機械(乗り物を除く)・部品・設備・道具」に入ると考えました。
この項目もありとあらゆるものが含まれますが、それをこの段階で盛り込むと膨大になります。
だからこの項目については別建てであとでもう少し細かく分けてリストアップすることとしました。
きっと家庭内の機械や道具、企業の工場の機械・設備、病院、学校、警察、消防署の・・などに分けられるものと思っています。
「住まいや職場を洗う」についてはどうでしょうか。
こちらも「住まい」はともかく「職場」はいくらでも細かく分けられそうです。
ただ職場の中で「工場」「病院」「学校」「警察」・・などに分けても異なるのは設置されている設備や機械、道具類であって建物、空間としては同じだろう、さらにいえば「住まい」も天井、壁、床、廊下がある点では同じと考えました。
その結果、こちらではさらに分類を細かくすることをせず、直接「掃除機」「ほうき・ちりとり・モップ・・」「床・壁用洗剤」「ワックス」「消臭剤」「カーペット用洗剤」「ガラス用洗剤」「トイレ用洗剤」「浴槽用洗剤」・・・と市場に直結する名前を記入していきました。
MECEすることが目的とならないように
上でも書きましたが、「MECE」はあくまで分析ツールですからそれを作ることが目的となってはいけません。
常に何をするために分析するのかを頭におきながら柔軟に考えていくことが必要なのだと考えています。
とはいえぼくもまだまだ初心者です。
今回のMECEも上級者のかたが見るときっと手を加えたくなるところだらけでしょう。
練習あるのみ。これからも実践でどんどん活用していきたいと思います。
まとめ
「MECE」はマーケティングのように様々な情報が入り組んでいるようなものを整理・分析するのにはとても有用なフレームワークです。
しかしあくまで目的は情報を整理したり分析したりすることにより次の行動につなげる点にあり、「MECE」することが目的となってはいけません。
そうならないようにするには本来目的を常に頭におきながら、「そのためには」と柔軟に考えて分類していくことが大切です。
ぼく自身がそうですが、実践、練習を重ねていくのみですね。
エピローグ
ロジカルシンキングのフレームワークには様々なものがあります。
「SWOT分析」などもその一つで、会社勤めをしていれば一度は見たり、自分でやってみたりしたことがあるのではないでしょうか。
ただこの「SWOT」も見ていると表面的に強みや弱みを書き出して終わってしまい、次の行動につながるだけの分析の深さが出ていないケースが多いように思います。
著名なコンサルティングファームが開発したフレームワークであっても使いかたが不十分だとそれなりの結果しか得られません。
何でも繰り返し実践してみることが大切で、論理思考についても上達には練習こそが唯一の道なのでしょう。
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