「信じる」と「信じない」の境目とは?

「神様の存在って信じてる?」と聞かれたらどう答えるでしょう。信心深いかたは「当然信じている」とおっしゃるかも知れません。あるいは「神様というとよくわからないけれどご先祖様はいつも見守っていてくれている」というかたもいらっしゃることでしょう。

そもそも「墓参り」という習慣も現代科学からすれば石に花を備えて何になるという人もいるかも知れませんが、多くの人はお彼岸になると先祖代々の墓地に出かけています。これは日本に限らない。お彼岸はなくても何かの折に亡くなった親や配偶者の墓に佇んで相談したり報告したりという光景は海外の映画やドラマにも出てくるシーンです。

さて「人は何を信じ、何を信じないのか」「信じる、信じないの根拠の境目はどこにあるのだろうか」が本日のテーマです。

学校で習ったことは信じるけれど習っていないことは信じない

小学校の黒板

これは子供たちにありがちな基準です。

理科の実験で習った通りの結果が出ないと「これは間違い」としてもう一度実験をやり直したり、「今回の実験は失敗だった」と結論づけてしまったりした経験がある人もいるのではないでしょうか。

「学校で習ったから」「先生がそう言っていたから」「お父さんが話してたから」などなど・・・子供たちがよく言うセリフです。

言いかえると権威者の発言は信じられるとも言えるかも知れません。

ただそれが常に正しいかといえば「いい国作ろう鎌倉幕府」と覚えた鎌倉幕府成立の年は最近では1192年ではなく1185年との説も力を持っていることでわかる通り必ずしも正しいとはいえません。

もっといえば「源頼朝が敵対する平氏を滅ぼし朝廷から諸国の守護、地頭などの任命権を獲得したのが1185年で、頼朝が征夷大将軍に任ぜられた1192年とどちらを鎌倉時代のスタートとみるか」だけの問題で歴史学者はそんなことにはあまり関心を寄せていないとまで聞くと、学校でその年号を覚えさせる意味はあるのかとの疑問符がつきますね。

またスポーツの世界で試合を解説する元トップアスリートの言葉にはみんなが「なるほどそういうことか」と信じてしまいがちですが、言われた当の選手にとってはその解説が的外れだったりすることも多いかも知れません。

みんなが言っていることは信じるけれど少数派の話は信じない

ガリレオと天体望遠鏡

これは大人でもありがちな話だと思います。

典型的なのはガリレオ・ガリレイが唱えた地動説などですね。それまでは万人が地球の周りを太陽が回っていると信じていましたから彼はまったくの異端児、しまいにはその主張のためにカトリック教会から有罪判決を受けてしまったほどですから彼の説は多くの人に受け入れられなかったわけです。

会社でもみんなが「そんなことできっこない」と言えばたちまちに実行不能なアイデアとして却下されるようなことはよくある話です。

自分で経験したことは信じられるけれど見たことも聞いたこともない話は信じない

会社でありがちなのは、若い頃に営業担当として腕を鳴らした部長が部下に対して「そのやりかたはだめだ、このケースでは自分の経験からもこう動いたほうが注文獲得に結びつく」と指示するような場面です。

厄介なのは、もし部長の案がうまく機能しなかった場合にそもそもの部下の案に戻って考えるようなことがまず起こらないことです。だめだった部長案がなぜうまく行かなかったのかを考えそこから改善しようとしたりする。いたずらに時間と手間ばかりかかったりしますが、そうなる根本には以前にこのやりかたでうまくいったとの成功体験があるからですね。

またこの「経験」には必ずしも自分自身が本当に経験したことに限らず「テレビで言っていた」のような見聞きした経験も含まれます。

たとえば以前は「卵を食べてよいのは1日1個まで。2個以上食べると血管が詰まる」などとよく言われていました。何年も前に厚生労働省が1日3個までは大丈夫と発表してからその情報に接した多くの人は考えを改めていますが、自分の目や耳で厚生労働省の発表に触れたことのない人はいまだに僕などが3個までは大丈夫なんだよと説明しても頑として受け入れようとしなかったりします。

信じられないことに手を出す?出さない?

さてそれでは人は自分の信じられないことに手を出したりできるものでしょうか?

おそらくNo。信じられないことには手を出さないのが人間だと思います。
それはそうです。「そんなことあるわけない」「できるわけない」と自分が思っていることをやったりしませんよね。そんな人がいたらよほどの失敗マニアかあるいは単に笑いを取ろうとしてやっているだけの人でしょう。

でもどうでしょう。自分の信じられること、すなわち「学校で習ったり権威のある人が言っていること」「みんながそうだと言っていること」「自分が経験を持っていること」だけをやっていたら何も新しいものやコトは生まれません。

さて困りました。人は自分の信じられないことには手を出さないように思考する、一方信じられることは既に誰もがわかっているようなことで新規性に乏しいことばかり、だとすると新規事業など生み出しようがありません。

この袋小路から抜け出すにはどうしたらよいでしょうか。

妄想

.

「若山 倫(ワカ)SNSの力を信じるサラリーマン」のアカウントでnoteを連載している若山さんは「経営者こそ妄想せよ!儲かるかどうかでは判断しない社長・前川さんに学ぶ。」の中で、飲食店「ながおか屋」を経営されている前川弘美さんの発言を引用して妄想の大切さを説いていらっしゃいます。

「経営者こそ、楽しい事・ワクワクする事・誰かが喜んでくれる事を妄想してなきゃダメ」
「そういう前向きなパワーがスタッフにも伝わる」
「儲かるかどうかより、まずは妄想して行動してみる事のほうが絶対に大切」

スープストックを始めとする多くの事業を創業された遠山正道さんが、サラリーマン時代にスープを中心とする女性の生活シーンを描いた「スープのある一日」という物語仕立ての企画書を作って当時の会社トップを説得したことは有名です。

これなどはまさに妄想の世界ですね。

この遠山正道さんに以前講演をお願いしたことがあるのですが、そのときにはこんなことをおっしゃっていました。

新しいことを始めるときに儲かるか儲からないかでは判断しません。
面白いか面白くないかが判断基準。
なぜならどんな新事業も失敗することがある。そのときに儲かるかどうかでGOサインを出していたなら「失敗してしまった」しか残らないが「面白い」から始めたのなら失敗しても「面白かった」が残るから。

実はこの講演会で聞いていた多くの人たちはこの話にあまりピンときていなかったようでしたが、上の前川社長とまったく同じ話です。

妄想経営者の共通項なのかも知れません(笑)

つまるところ、信じる力とはすなわち学校で習わなくても(権威ある人が反対しても)、周りがみんな疑問を持っていても、自信がやったことがなくても、「できる」だろうと妄想する力なのかも知れません。

白い紙飛行機が進む中で赤い紙飛行機が進路変更

妄想力=想像力=やりたいと思う力

妄想するには想像力が必要です。

ただしここでいう想像力とは単に未来を想像するということでなく、「こんなことができたらいいな」「こんな世界を作れたらいいな」など自分がやりたいこと、自分ができることを想像することです。

そしてその力は「でもちょっと難しいかな」「ほんとにそんなことできるかな」のようなマイナス感情を押さえてあまりある「やりたい力(りょく)」でもあります。

今では宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)の中で何ヶ月も滞在することが当たり前になっていますが、つい何十年前まではそんなことは無理と言っていた人が多数派だったことでしょう。
1961年にJ・F・ケネディ大統領が「10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」と演説したときにどれだけの人が確信を持っていたことでしょう。

それでも猛烈な「やりたい力(りょく)」がケネディ大統領に、NASAの面々に、関係者にあったからこそ実現できた。

月面着陸
プロポーショナルフォント

スティーブ・ジョブズが美しいプロポーショナルフォントをマッキントッシュに搭載するまで世の中の誰もがそんなものに労力をかける意味を理解していなかったことでしょう。
ジェームズ・ダイソンが初のサイクロンクリーナーとしてヒットを放った「DC01」が世に出る1993年までの間に作った試作機は5127台といいます。
オリンピックの体操競技では昔は「ウルトラC」という言葉があったのに現代の大技はH難度です。
今やGalaxyのスマホの液晶画面は折りたためるようになっていますし、自動運転のクルマが街中を普通に走る時代もすぐそこまできています。

どれも最初に言い出した人は周りから「そんなのは無理」と言われたことでしょう。
そして実現への道は平坦なものではなかったことでしょう。

でも「やりたい力(りょく)」がマイナス感情を押しのけたのです。

もちろんネガティブ要素を想定して対策を考えることは重要ですが、それ以前にあふれ出る「やりたい力(りょく)」がなければネガティブ要素に負けてしまうということでしょう。

その力こそが「妄想力」なのだと思います。

今回は「信じる力」から「妄想力」につなぐ話でしたが、信じる・信じないの底に潜む事実(ファクト)の認識についての問題とそれらの具体を抽象化して取り込むプロセスを抜きにして妄想力だけで突っ走ってはうまく行きません。そこについては次回以降に取り上げたいと思います。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

山田文彦
 株式会社クレハトレーディング代表取締役社長
 社員の力をどうやって高めていくか? これが毎日考えているテーマ
 日本一の会社にしたいと真面目に考えています

コメント

コメントする

目次