前の会社でも、今の会社に移ってからも、メンバーに言い続けていること、それは「一歩を踏み出す」こと。
引き継いだ仕事をしっかり覚えることは大事だけど・・
僕の周りにいる社員の皆さんは、いつも真面目な人が多い。前の会社で部署が変わった時も、今の会社に来たときも、いつだって真面目な社員に囲まれていたと思います。真面目、それは大きな美点です。たとえば前任者から引き継いだ仕事をまずはしっかり覚える。それから自分なりに工夫を加えて、たとえばより効率的なやり方に変えるとかですね。素晴らしいことと思います。
でも、それだけでは足りない。思い切って、やったことのないことにトライしてみる。今まで誰も思いつかなかったことをやってみる。そうすると自分の世界が大きく開けてくるもの。
と、こういう話をすると、みんなわかっていると言います。でも・・・
小売業を通じてB to C製品を売ってもらうメーカーの営業だったら・・
価格競争はなぜ起きるのか
B to Cのメーカーの人を例にあげると、小売店に自社の製品のスペックや特徴を並べて説明し、なんとか店頭に並べてもらうのが仕事ですね。
でもお店側は店頭のスペースをその製品に提供するからには、ちゃんと売れなければ意味がありません。週販何個とか月販何個とかが一番気になるわけです。当然、競合店より高ければ売れなくなるので店頭売価が大事になります。次に、競合より安くても利益を出せなければ意味がありませんから、仕入れ値が重要となります。
でも、そのメーカーには当然他の販売店の担当者もいて、その彼、彼女は担当先で同じ話になっている。かくして価格競争が始まります。
価格に頼らない販促とは・・
まずはやはり過去の成功体験から
営業担当者は、会社から「値段を下げるな」と言われているものです。値段を下げることはイコール会社の利益を減らすことですから、売る立場からすれば1円でも高く売りたいと思うのは当然です。ですから、なんとか仕入れ値には手をつけずに定番に差し込む算段を考えます。そこで考えるのが、過去に自分自身や先輩がやってきた販促手段。
たとえば、「来月は集中して◯◯GRPのコマーシャルを入れるのでそれに合わせて店頭を作りましょう」「御社の商品券が当たるキャンペーンを入れて売り上げを作りましょう」「隣の売り場のバイヤーを口説いていただいて、コラボレーションの売り場を作りましょう」
だんだん価格条件が入り込んでくる
だんだん、「うちのこっちの商品とセットでお買い上げいただくとこれだけお得のキャンペーンをしましょう」「チラシで超目価格にするとお店の利益も減りますから、中目の月間販促価格を設定しましょう」などと価格要素が入り込んできたりもします。
さらにエスカレートすると、価格訴求力の強い自社商品を引き合いに出して、「この商品にこれだけの販促価格条件をつけるので、なんとかこちらの新製品を定番に差し込んでください」などということもあるかもしれません。
これらはいずれも過去の営業経験の中でやってきた販促で、どの案だとバイヤーは乗ってきやすいかということもわかっているわけです。
価格訴求でない手段で売り上げを作るなどはマーケティングの本の中の世界で、現実にはなかなか通らない。多少は条件もつけないと無理だよね、と考えるのも過去の経験から。
浅田真央さんはトリプルアクセルを飛べるまでに何度転んだことか
五輪メダリストの浅田真央さんだって最初からトリプルアクセルができたわけではない
価格条件では一歩も引かない商談などは怖くてできないというような場面で、でもやってみる。相手は機嫌を損ねるかもしれないけれど半年我慢してもらえばお店側も利益が稼げるようになってハッピーになるはず、と考えても、もしそうならなかったら・・・と思うと不安で強くは通せないということが多々あるものです。
そんなときに一歩を踏み出せるかどうか。
よく言っていたのはフィギュアスケートの浅田真央さんの話。真央さんはトリプルアクセルを飛べるようになるまでに何回転んだことか。100回や200回ではすまなかったと思います。千回でも足りないかもしれない。もしかしたら1万回転んでやっとできるようになったのかも知れません。
テニスの錦織圭さんが世界ランクでトップ10に入るまでに何回負けたか。これも10回や20回ではすまなかったでしょう。
ユニクロの柳井正さんは「一勝九敗」という本を執筆されていますが、これも時系列を正確に表現すると「九敗一勝」だろうと思います。
私たちの仕事も同じ とっとと規定回数分、失敗しなければ・・
トリプルアクセルができるようになるのに100回、転ばなければならないとしたら、とっとと100回転んでこい。トップになるために100回負けなければならないのならとっとと100回負けてこいという話をいつもしています。
スポーツの世界と同様に僕らの世界においても、ヘタレな商談を30回やって初めて相手が納得する商談をできるようになるのだったら、とっとと30回ヘタレな商談をやって怒られてこいということです。
30回失敗するところをなんとか10回で済まそうと努力する、それは素晴らしいことです。でも30回失敗したっていいんです。むしろできるだけ早く30回失敗することの方が遥かに大事。そう言ってきました。
でも新しいことに取り組まない方が失敗は少ない
私の今の勤務先は商社なので、常に新しい商品(製品)、新しい事業、新しい得意先、新しい仕入先を開拓していかなければ業績は先々尻つぼみになります。
ところが新規の仕事を開拓していくのは、既存の得意先や製品の業務をこなすことに比べてすこぶる効率が悪い。それはそうです。当たって砕けろみたいなもので、新しいお客さんにアポイントの電話を取り付けて商談に行ったところで、商売が成立するかどうかはわかりません。それどころかアポイントも取れずに終わることだってあります。
背負っている予算達成が優先になりがち
毎月出荷している販売先に来期の動向を聞きにいくとか、知りたい情報を提供することによりそのお客さんを確実にキープしていく努力の方が先が見えやすい。
したがって忙しくなればなるほど既存業務優先となって新規が後回しになるものです。営業担当者はみな予算責任を負っていますから、確実に自分の予算を達成する道を進もうとするのは自然なことです。
新しい一歩を踏み出すには勇気が必要
なので、新規に自分の気持ちを向かわせるには、どうしても「一歩を踏み出す」重要性を頭に刻み込まなくてはいけない。「一歩を踏み出す」勇気を持たなければならない。
そのためには失敗することはいいことだという思考に頭を切り替えなければなりません。かくして「とっとと30回失敗してこい」となるわけです。
では、このように言うことで、みんな一歩を踏み出すようになるかといえば、ことはそう簡単ではありません。それはそうです。言われたことは頭では理解できるけれど、それでもやはり失敗はしたくないと思うのが人情です。
どうしたら勇気を持てるか
それをどう突破するか。
一つは、会社の中で、まず若い人に動いてもらうこと。人間、歳をとるとそれだけ経験値が高まる、それ自体は良いことですが、逆に自分の経験則の中でものごとを考えるようにもなってしまいがちです。こんな風にやるとこんな結果が待ち受けていると予想がついてしまうわけです。
そうすると過去の自分の経験の中で上手くいったことしかやらなくなる。上で申し上げた通りですね。
でも若い人は経験値が少ないから、「やってみよう」が生まれやすい。若いがゆえに失敗が許される環境もあります。自分でも失敗してもいいやと思える精神状態にある。ベテランになればなるほど失敗は恥ずかしいこととなりがちです。だから若い人を焚きつけて、新しい一歩を踏み出すようにリードする。
一人がうまくいくと僕も、私もやってみようが出てくる
周りはそれを見ていますから、若い人が楽しそうに新しいことに取り組んでいればそのうちに「俺も」「私も」やってみようかな、となります。そうやって「一歩を踏み出す」輪を広げていくのです。
たいていの場合、周りのみんなも新しい一歩を踏み出す、というよりは、若い人が踏み出した新しい一歩を同じことをやってみるというパターンになります。つまり本人にとっては初めてのトライ、新しい一歩ではあるけれど、チームとしてはすでに若い人がやったことをトレースしている、言い換えると「新しくない一歩」を踏み出しているに過ぎません。
それでいいのです。「おう、お前もそれ、やってみたのか。面白いな。どんどんやれ」と言ってあげれば、得意になって続けていく。それを見ている別の担当者たちの中からもまた真似する人が出てくる。そうやって少なくとも自分にとっては新しい「一歩を踏み出す」ムーブメントが広がっていきます。
この動きがひとしきり続くと、そのうち別の一歩を踏み出す人が出てきます。それが上手くいったりすると、またそれを真似する人が出てくる。このスパイラルが続いていくことで少しずつ「一歩を踏み出す」ことが、いわば習慣のように拡散していくのです。
大事なことは、うまくいかなくても挑戦をほめること
その場合に一番大事なことは、一歩を踏み出すこと自体を認めてあげること、「よくやった」と挑戦自体をほめること。その結果失敗したとしても責めないこと。そうしていれば自然と輪が広がっていきます。
ただこの方法の難点は一人の動き出しがチーム全体に波及していくまでに時間がかかることです。組織風土を変えるには時間がかかるのは当然だ、そこで焦ってはいけない、というのは真理ですが、現実に会社を成長させていこうとするミッションの中では、そこまで悠長に構えていられないことも多いもの。
どうしたらみんなが争って一歩を踏み出すようになるか。
一歩を踏み出すこと自体を楽しめることが一番
そこで考えたのが第2案です。
運動部の練習はつらいのになぜ頑張って続けられるのか
部活をやっていない友達は楽しそうに見えるもの
ここに県大会出場を目指している高校サッカー部があるとします。今年こそは市の予選を突破するぞと毎日練習している。県大会を目指しているくらいだから練習はハードです。月曜から土曜まで毎日。週末も試合があったりしますから、他の遊び、たとえば映画を見たりする時間はありません。
練習内容もただボールを蹴ったりするだけでなく、スタートダッシュの練習、持久走のトレーニング、ベンチプレスなど、かなりきついメニューも日々こなしています。
クラスの仲間が、今日は映画見にいくだとか、帰りに喫茶店によるだとか(40何年前の当時の話です。今の高校生はそんなことはしないのかも知れません)、楽しい話題をしている中で、部室に向かう。部活辞めたいなと思うこともありますね。でもたいていはやめないもの。なぜやめないのでしょう。
サッカーやラグビーの練習が面白い理由
それはやっぱり、サッカー部だったらサッカーが好きだから、ラグビー部だったらラグビーが好きだから。なぜ好きかといえば、サッカーが、ラグビーがプレイしていて面白いから。それに尽きます。
ではなぜサッカーが、ラグビーが面白いのか。それは、例えばサッカーで自分のところにパスが来てからのドリブルであれば、フェイントで相手の逆をついて抜き去ることが快感。後方からパスをもらって振り向きざまに打ったシュートがゴールネットを揺らすのが快感。バックスであれば、相手の動きを読んでタックル一発でボールを奪取することが快感。
ラグビーだって一つひとつのプレーに面白さ、上手くいったときの快感があります。だから面白くてやめられない。ついこの間までできなかった技が練習の末決まるようになったりすれば、それはそれは楽しいわけです。
仕事で楽しさを生み出すには
予算達成だけ考えて仕事をしても楽しくない
であれば、仕事もそうやって一つひとつのプレーに細分化して楽しめばいい。予算を達成するなどということを目標に掲げてそれだけを考えているから面白くないのです。ただ疲れるだけで、予算達成してもほっとするだけ。面白いとか楽しい感情は湧いてきません。
もっと細かく、例えば商談相手が想定していなかった情報を用意しておき、タイミングを図って提出する。相手はこんなデータがあるのかと興味津々になって話を聞いてくれたり、目を丸くして驚いてくれたりしたら、しめしめ、してやったりと楽しい気持ちになりますね。
価格交渉だったら、事前に十分シミュレーションをしておき、こう言われたこう返そうというパターンを頭に叩き込んで出かける。交渉の展開がシミュレーションの通りになったら、それは楽しいものです。
自分の成長を感じられると楽しくなる
逆にこちらの想定外のことで攻められてタジタジになってしまうこともあるでしょう。そんなときには、相手が一枚上手だったとシャッポを脱げばよいのです。そのやりとりをしっかり自分の引き出しにしまっておき、次の機会に応用する。そういうやりとりが仕事を面白くするのでしょう。
こうして「一歩を踏み出す」ことそのものを面白く、楽しいものにしていけばよいのだと考えるようになりました。とっとと50回失敗してこいというのは、50回嫌な気持ちを味わうということですから、やはりそれでは一歩を踏み出せない人も多い。一歩を楽しいものに変えていけばいいのだと気づきました。
なので最近は仕事を、それが上手くいけば面白い、楽しいと感じられる単位まで細分化していこうと話しています。
言い方を変えれば自分自身が成長したと容易に感じられる単位にまで細かくするということ。ラグビーだったら、22mラインからのペナルティゴールだったらどこから蹴っても決められるように練習するみたいなものです。
当然、人事評価も予算達成の前に、細分化した課題をやれるようになったかどうかを見ることが大切
実は、現在会社の人事制度を改定することに取り組んでいます。その根幹となる評価制度について、単に予算を達成したかしなかったかでなく、プロセスを細かく分解してその一つひとつができたかどうかで評価するように変えようとしています。
人事評価の大きな目的のひとつは社員の成長にある
仕事の中でドリブル、シュートにあたるものは何か
人事評価は社員を成長に結びつけなければいけない、社員の育成に繋げるためのものとよく言われます。予算を達成したかどうかで評価すると、未達で終わったときに、「はい、あなたは予算達成できなかったから評価はCです。次回は達成させましょう」となり、これでは育成したことにはなりません。
では、次回はどうしたら予算を達成できるか一緒に考えようと言ってもテーマが大きすぎて的確に教えることは難しい。往々にして「予算数値へのこだわりが足りない」、「詰めが甘い」などの精神論になりがちです。
予算達成のためにやっていくこと、そのプロセス一つひとつを課題として見える化する。それを上司と部下で共有する。たとえば「商談に出かけるときに、今回の商談テーマから相手が欲しがりそうな情報を準備していく」ことを課題としておけば、相手から「こんなデータはあるの?」と聞かれた時に手元になかったために交渉が決まらなかったとしても、上司との話し合いの中で、次は客先企業のライバル会社の動向は調べていこうとか、海外市況を調べていこうとかのアイデアが出てきます。
すべきことが細かく具体的になっていれば相談にも乗れる
もっと言えば、次回からは商談に出かける前に上司や仲間と準備したデータはこれこれだけど足りないものはないかなと相談することにしよう、という話になるかもしれない。
そのような細かい一つひとつのことに光を当てて改善していく、それが個人の成長をより確実にするし、予算達成にも繋がっていくものと考えています。
新規分野であれば誰も正解なんてわからない。だからみんなで悩めばいい。
新規分野に一歩踏み出すことも同様です。新規分野というのは初めてのことですから誰も正解なんて知りません。上司ですらわかりません。
だから人事評価の課題も、新規客先を開拓するとか、新規商材を見つけてくる、というような大きな、そして漠然としてものにはしない。◯◯社に営業をかけるために、まずそこと付き合いのありそうな会社をリストアップして紹介のツテを探るなど、誰が見てもやることがはっきり見えるレイヤーまで落とし込む、それを上司と一緒に悩みながら、手探りでいいから決めていくことが大切です。
その結果うまくいかなければ、次の方法を考える。その都度上司や仲間を巻き込んで一緒に悩む。うまくいったらみんなで喜ぶ。そうやっていくと仕事は楽しくなると思っています。
実は、第3案を考えなければならなくなりました
と、こんな話をあるコンサルタントとしていたら、その方が言うには・・
浅田真央の話はわかりやすいけれど、社員はみんながオリンピック選手を目指しているわけではない。僕は県大会レベルでいいや、という人もいるだろう。そこは人それぞれ。みんなに浅田真央や錦織圭を目指せと言ってしまうと、ついていけないメンバーも出てきます。
確かにそうですね。僕自身がやるからには一番を目指したいと思ってしまうタイプなので、ついこのような考え方をしてしまっていました。コンサルタントの指摘は至極もっともです。
さて、ではどうしていくか。これはまだ考え中、悩んでいる真っ只中です。考えがまとまったところで改めてご紹介したいと思います。
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